「ねえぼくの眼が
どんどんかすんでいって
この手に触れられるものしか見えなくなったとき
きみは遠くまで行って
そしてぼくに遠くの世界を持ってきてくれる?」


彼はそう言って、そうして
視界を殆ど失くしたが
そうなってはじめて
わたしが、その手に触れられない程遠くまで
行ってしまうことの恐ろしさを知った。


だから彼は
もう遠くの世界を、その色を、景色を
手にすることはなく
ずっとわたしの手を握り、安心したように眠っている。